<絵本town特集>長野ヒデ子さんのデビュー作
2014/5/9 金曜日 特集・あの作家さんのデビュー作!長野ヒデ子さん
ながの・ひでこ
『とうさんかあさん』
1976年/葦書房 → 2000年/石風社
●デビュー作の思い出
私が福岡・太宰府に住んでいた子育て時代、もう40年近く前のこと。
松谷みよ子さんの講演を聞き、「むかしばなしや民話は子どもに生きる力を伝える。ぜひ語ってあげなさい。でも語れない人はがっかりしなくていいですよ。自分の子どもの頃に話をして、それが現代の民話ですよ」と言われました。「ふーんそうなんだ」と。
そんな時、1年生に入学した息子が「1年3組・ながの まさふみ」と言われたことが殊のほか嬉しかったようで「おとうさんは1年のとき何組?」「おかあさんは?」と何度も聞くのです。聞いて知っていても、何度も聞くのですよ。お風呂の中で、電車の中でとか。
もうこれは親子のすばらしいコミニケーションの一つなんだと、なんとなく絵本もどきにしました。当時、私は文庫活動をやっていたので、市販の本と一緒に子どもたちの大好きな絵本の仲間入り。それが評判になり、長野さんちにおもしろい絵本があると、当時、葦書房の編集者だった福元満治さんが我が家に訪ねてこられ「おもしろい、出版したい」と言われたのです。
「何組? と聞くだけの我が家だけの絵本なのに、コレを出版? 売れないですよ」
「いえ、何かわからないが面白い。この“何かわからないけど面白い”が大事と思う」と言われたのです。
それで出版されてみると、話題を呼びました。神沢利子先生は「絵本の原点の大事なものが全てつまってある」といってくださり、書評もいっぱい出ておどろきました。
絵本は、画家がいて作家がいても、本にはなりません。 どんな編集者に出会うかで本の出来が違います。
私は最初に素晴らしい編集者に出会い、たくさんのことを教えていただき、育てていただきました。
編集者との出会いが大事と思いました。
福元さんは実に素晴らしい出版美学をお持ちで、なぜ本を出すという根っこのところの出版美学のことです。
本のデザインではありません。この1冊が、私の創作活動につながろうとは思いもしませんでした。
その後、福元さんは石風社をたった一人で起こされ、この本も、石風社刊になりました。福元さんは九州の地方にありながら、ペシャワール会の中村哲さんはじめ、とてもいい本を出し続け、出版文化を支えられています。
最初にいい編集者に出会ったことは本当によかったです。
●作家を目指す方々への応援メッセージ
いまの時代に出版されるということは、本当に至難のワザ。
でも誰にでも可能性があり、作家になることは案外とても簡単でもあり、実は大変難しいことでもあるのです。
でもそれを承知で、作家を目指して生きているなんて感動させられます。
そんななかで、あなたの本が出版され、作家になられたら、本当にすばらしい!!
だって絵本や児童文学は、赤ちゃんから大人までが読める本の中でも一番すばらしいものだからです。むつかしい事を、わかりやすく、誰にでもわかる言葉で、楽しく、それでいて奥が深い本でなければならず、本の中の本だからです。
でも作家になろうがなるまいが、出版されようがされまいが、生きることそのものが1冊の絵本であり、作品です。
きちんと丁寧にささやかに、あせらず、のんびりと、失敗もしながらも、しっかり生きてゆくことが、すばらしい創作だと思います。
これが創作につながるのではないかと。それこそ実にすばらしいこと。
自然の営みに目を見張り、しっかり見つめると原発なんていらない! と、自然と思いますものね。
そのように自然と手に入るものと思います。
日々の生活の中で、何気ないものの中から、輝くものを生み出す。
これぞ誰にもできる道で、作家になれる道かなあと。
わたしも実は何も出来てないので……私にも、どうぞいろいろ教えてくださいね。
●長野ヒデ子さんのページ
ホームページ http://www.taikosan.com/works.html
●長野ヒデ子さんの最新作
『やぎや』
スズキコージ/絵
すずき出版/刊