<絵本town特集>寮美千子さんのデビュー作

特集・あの作家さんのデビュー作!

寮 美千子さん
りょう・みちこ

(画像をクリックすると、拡大表示をします)

ねっけつビスケット チビスケくん
絵・古川タク
第10回毎日童話新人賞受賞作
「毎日こどもしんぶん*」に連載(1986.4.12~8.9掲載) 全18回/毎日新聞社
*「毎日こどもしんぶん」は、現在「毎日小学生新聞」として刊行


●デビュー作の思い出

童話作品を書いて賞に応募して、最終選考までいくものの、 受賞できないということが数回続きました。その壁を突破したくて、過去の受賞作を読み、 傾向と対策を立てて応募。 見事、最優秀賞を射止めました。
ビスケットやお菓子がみんなで月へ逃亡する物語で、いま読むと、型破りぶりが、実にわたしらしい作品です。すべてを「現実」として描きましたが、 審査委員長の寺村輝夫氏から、なぜか 「夢でした」という結末に書き直すように、提言されました。納得がいかないので、お断りしたところ、毎日童話新人賞史上はじめて、単行本にならなかった受賞作になってしまいました。いまだに、単行本化されていません。
そして、この受賞が、その後、わたし自身を苦しめることになるとは! というのも、自分が本当に書きたい哲学的な作品を書くと 「もっと楽しくて、元気で、ナンセンスなものを」 と編集者にいわれてしまうようになったのです。自分が本当に書きたいものではないものを書いた報いでした。
その呪縛を逃れるために書いた作品が『小惑星美術館』。書きたいことを遠慮なく思いきり書いたら、童話の範疇を超えて、小説になってしまいました。この作品から、わたしの、わたしらしさを評価してくれる編集者がつくようになりました。やはり、自分を偽ってはいけないと、つくづく感じました。

作家を目指す方々への応援メッセージ
デビューするための突破口を見つけて、傾向を対策を立てて作品を書くのも、ひとつの手ではあります。しかし、それは、いまある世間の価値に迎合するということ。「作品」ではなく、「商品」を制作するということです。それが後に、自分を苦しめることもあります。真の理解者を見つけるのは、むずかしいことですが、ほんとうに自分の書きたい作品に誠実に向きあうことは、なによりも大切なことだと思います。

寮美千子さんのページ
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