コソボの10人家族の家づくり
2008/6/5 木曜日 絵本つれづれ
数年前、新宿で見たある写真展。
会場の片隅に置かれたラジカセから音が聞こえてくる。
牛の鳴き声、子どもたちの笑い声、草を踏みしめる音。
まるで自分もそこにいるような気持ちで写真を眺めた印象的なこの展示は、
長倉洋海さんの写真絵本『ザビット一家、家を建てる』のものでした。
『ザビット一家、家を建てる』 長倉洋海/写真・文 偕成社/刊 1,890 円(税込) |
コソボに住むザビット一家は、
内戦で家は焼かれ、家財は盗まれ、職を失い、
きびしい生活ながらも、あたたかい笑顔に満ちたすてきな家族。
8人いる子どもたちのいきいきとした、からだいっぱいでの表情が、
ページのあちこちにまぶしいばかりにはじけます。
一家はようやく自分たちのちいさな家を建てはじめたところ。
大きいおにいちゃんたちばかりでなく、
みんなが自分のできることを手伝いながら、家はだんだんできあがっていきます……。
長倉さんをきょうだいのように思うザビットさんや家族たちがカメラに向ける笑顔は自然で、長倉さんを橋にして、読者とザビット一家は友人になってしまいます。
世界にはこんな家族もいる、と広さを感じると同時に、
長年暮らしてきた家や大事に使ってきたものを失っても、
それぞれが支え合いながら力いっぱい生きるこの家族の日々を見て、
わたしは自分の家族を思い起こします。
そして、自分のまわりのひとやその家族を思うように、
ザビット一家が近しく感じられます。
写真についた文は短く、ルビもふってあるので、子どもも読めますが、
ザビットさんに自分を重ねられるおとうさんは、また別の思いでこの本を読むのではないでしょうか。
全編モノクロながら、木々を渡る風の匂いや空の青さまで感じられるような、
コソボの夏を感じてください。