長野ヒデ子さんから、すてきなレビューが届きました。

絵本作家さん, クレヨンハウス出版の絵本

長野ヒデ子さんが、今森光彦さんの『わたしの庭』を紹介してくれました。


 
 
「わたしの庭」(今森光彦/文・写真)を読んで

     紹介文/長野ヒデ子

「私、この写真のこの里山に行ったことあるのですよ」と威張ってみたいなあ、ほんと。
昨年の秋、大津の仰木の里山で開かれた[里山みらい塾]に、今森さんから招かれたのです。

今森さんが「美しい里山自然を、後世に伝えたい。そんな思いから[里山みらい塾]は立ち上がりました。
滋賀県湖西地方にひろがる田園は、『今森光彦の里山物語』の舞台になったところ。琵琶湖をのぞむ豊かな谷あいから輝くメッセージを放ちます。
大人も子どもものどかな風景にいだかれて、心ゆくまで秋の日を満喫しましょう」とおっしゃるのですから飛んでゆきましたよ。
その世界の神髄が、この絵本にあるのです。

今森さんのアトリエのある里山は、子どもの頃歩いた、あの懐かしいのどかな里の秋の風景がそのままでした。
うれしくてポコポコと畦道を歩きながら、里山のすべての空気を体中に吸いこんで、ああ、まだこんな景色が大事に残されている、と本当にうれしくてたまりませんでした。

その日は、地元の仰木の方々と一緒に、棚田の贈り物のムカゴノおにぎりや味噌漬けのお弁当をいただき、棚田を歩き、棚田トークをし、それは楽しかった。
地元の方々の素朴な会話の中に感じられるこの里山への愛情と、里山と共に暮らし、先祖から受け継がれた格式と誇りが眩ゆく、ああ、このような方々がいてくださるからこそ守られているのだと、深い尊敬の念を感じました。

今森さんは、しみじみおっしゃられた。
「ここの里山を見つけ、ここに来るようになり、アトリエを持ち30年。やっと30年かかって、こうして地元の方々と本当に深い交わりを持てるようになった」と。
この重みがあるからこそ、ここは今森さんにとっては里山でなく『わたしの庭』なのだと思いました。だってもう、あの今森さんの歩き方も、見つめるこころもみーんな、いとおしい身内のものを眺める目をしておられましたもの。

おみやげの稲穂の束に、満面笑顔の長野ヒデ子さんその日の帰り、地元に方からおみやげに手渡されたのは、稲穂の束! 美しい花束にも勝るこの稲束に感動しました。私はしっかり穂をたれた美しい稲穂の束を抱えて、新幹線で帰りました。京都駅のホームでは観光客が稲穂の束をみんな嬉しそうに眺め、知らない人までが寄ってきて写真まで撮られましたよ。みんな、この本物の自然の稲穂に目を見張り癒されたのでしょうね。

それほどインパクトがあり、ああ、もっと里山にいたかったなあと、あの日のことを思い出しながら『わたしの庭』のページをめくると、「お前さん里山で、なに見てきたんだ、本当になーにも、ちゃ-んと見てないじゃないの!」と頭をたたかれたような衝撃を受けた。いやあ驚いた。

それは、あの今森さんのアトリエのある仰木の里山が、まったく違う世界で現れたからです。
ああ、私はこの里山を歩いたけど、本当にこんな深いところまで何にも気づかなかった。何にも見ていなかった。今森さんは、よくもここまで、ちゃんとこころを込めて見ておられる、それをこうして教えてくださって……。

感謝の喜びでいっぱいになり、もうページをめくるたびに、胸が熱く目がうるんでしまったのです。それは、この『わたしの庭』に、今森さんは大きな宇宙をしっかりととらえているからなのです。

見落としてしまいそうな、この小さないとしげな生き物、虫たちに、植物に。そして、いつも誰もが見慣れて、当たり前に思っていた景色のふと見せるいたずらっ子のような仕草に、これほどまでにそれらをちゃんと認めあい、こころを通わせ、見逃さないで愛情を重ねることができるなんて! うれしくてほほが緩み、体中が喜びにわくのです。

こんな素晴らしい宇宙が、すぐ目の前にあるなんて気づいていただろうか。
「気づかないで、見過ごしているともったいないよ」という今森さんの言葉が聞こえてくる。それも、お隣のいたずら好きのおにいちゃんのような親しみを込めた語り口でいて、言葉は詩のようで、ユーモアがあり、ぐんぐん『わたしの庭』に吸い込まれる。
それは知識で得た言葉ではなく、体験した言葉で、しっかり大地の熱を感じながら見つけたうれしさだから。
誰もに分け与えてくれる欲のない言葉だから、惹き込まれるのでしょう。

こんなに話すと、すぐにこの本を読みたくなるでしょう。「もう待てないよー」という人もいるでしょう。
でも「見せてあげなーい。これ、わたしの庭だもーん」と意地悪したくなるほど、独り占めしたいところだけど、ちょこっとだけ教えてあげましょうか。

ドキドキすることがいっぱいあるので、あげてみると……

◎ふふふ、ムラサキゴケの園児とすみれ先生がいる「むらさき幼稚園」行ったことある?

◎枯れたアザミのしずくの中に、あっ!ノアザミが!こっちも、こっちも、こっちもー。

◎雪の日のかわいい雪玉が……えっ!刈田のわらの切り口に雪が! いやあ、はしゃいでいる今森さんの声まで聞こえるのよ。これ、ふふふ、なにだかわかる?

◎ヨモギの葉が妙に色っぽいのって見たことある? ン、知らないでしょう。

  

などなど、いろいろ発見がいっぱいの写真がすばらしい。

 表紙は、ベニイトトンボとオンブバッタよ。
それがね、それぞれ別の世界をながめているのがおもしろい。
そして、この装丁と造本が実にいいのです。
すばらしい装丁は、本に浮力をつけ浮き上がらせる力があるといわれるけど、まさにそれがある。読者のところにビューンと飛んでゆきそう。ホント、ホント、もういまにも飛び立ちそう。
あっ! オンブバッタが飛んだ! もしかしたら、表紙のオンブバッタが飛んで行ったのもあるかもしれないわよ。
さあ、私たちもオンブバッタに負けないで、宇宙に飛んでゆきましょうよ。今森さんの『わたしの庭』の宇宙にね。